(第77回)春に注意するべきお子さんの病気~麻疹(はしか)~
今回から5回に分けて、新シリーズ “あの頃のすくすく赤ちゃん” がスタートです!!
まずは、1960年代の“あの頃のすくすく赤ちゃん”です。
“あの頃のすくすく赤ちゃん” の紹介は、コラムの最後に登場です。
尚、これまでの「すくすく赤ちゃん」、「すこやかキッズ」は引き続き募集中です!
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4月に入り、お子さんが保育園、幼稚園へ入園、小学校へ入学、パパの転勤で引っ越しなど、新しい環境の中で過ごされている方々も多くおられると思います。
この冬はインフルエンザが猛威を振るいました。特に、2018年第5週(2018年1月29日~2月4日)には定点当たり報告数が54.33となり、現行の監視体制である感染症法施行開始の1999年4月以降最高となりました。
春はインフルエンザなど冬に流行った感染症が収束する時期であり、これから流行するという病気は少ない季節です。
ただし、お子さんの中には保育園、幼稚園へ入園し、集団の中で生活する時間が増えると、そこから様々な病気に感染する可能性があります。
そこで、今回は春に注意するべきお子さんの病気として”麻疹(はしか)”について考えていきたいと思います。
麻疹(はしか)とは
麻疹ウイルス(Paramyxovirus科Morbillivirus属)に感染することで発症する感染症です。
潜伏期間
約10~12日間。
症状
臨床的に、カタル期、発疹期、回復期に分けられます。
カタル期
〇発熱(38℃前後、2~4日間)
〇倦怠感(小児では不機嫌)
〇咳
〇鼻水
〇目の充血、目やに
〇小児の場合は下痢、腹痛
風邪の症状に似ているので、注意が必要です。
早期診断のポイント!!
口腔内の頬粘膜にコプリック斑という特徴的な白い斑点がみられます。
発疹期
発熱がおさまった後、半日くらいのうちに再び高熱(多くは39℃以上)が出るとともに紅斑(赤い発疹)が出現します。発疹は耳の後ろから顔面にかけて出始め、身体全体に広がります。
合併症
麻疹には様々な合併症があります。
肺炎
麻疹肺炎は3種類あります。
「ウイルス性肺炎」
ウイルスの増殖に伴う免疫反応・炎症反応によって起こる肺炎です。
「細菌性肺炎」
細菌の二次感染による肺炎です。
「巨細胞性肺炎」
成人の一部、あるいは特に細胞性免疫不全状態時にみられる肺炎です。肺で麻疹ウイルスが持続感染した結果生じるもので、予後不良であり、死亡例も多いものです。
中耳炎
細菌の二次感染により起こります。麻疹患者の約5~15%にみられる合併症です。乳幼児では症状を訴えることができないため、中耳からの膿性耳漏で発見されることがあり、注意が必要です。
クループ症候群
咽頭炎および咽頭気管支炎です。
心筋炎
心筋炎、心外膜炎をときに合併することがあります。
脳炎
麻疹を発症した1000例に0.5~1例の割合で脳炎を合併します。発生頻度は中耳炎や肺炎のようには高くはありませんが、肺炎とともに死亡の原因となり、注意を要します。発疹出現後2~6日頃に発症することが多くあります。
亜急性硬化性全脳炎(subacute sclerosing panencephalitis :SSPE)
麻疹に感染後、7~10年で発症することのある中枢神経疾患です。知能障害、運動障害が徐々に進行し、発症から平均6~9カ月で死に至る進行性の予後不良疾患です。発生頻度は、麻疹罹患者10万人に1人とされています。
合併症の半数が肺炎です。また、頻度が低いですが脳炎も合併症として起こり、これらは麻疹の二大死亡原因といわれています。
ここで、ポイント!!
麻疹に対する免疫は持っているけれども不十分な人が麻疹ウイルスに感染した場合、軽症で非典型的な麻疹を発症することがあります。このような場合を“修飾麻疹”と呼ばれています。
症状の例としては、潜伏期が延長する、高熱が出ない、発熱期間が短い、発疹は手足だけで全身には出ないなどです。この場合、感染力は弱いですが、周囲の人への感染源にはなりますので、注意が必要です。
感染経路
空気感染(飛沫核感染)、飛沫感染、接触感染など様々な経路があります。
麻疹ウイルスの感染力は極めて強く、免疫のない集団に1人の感染者がいた場合、周囲の何人に感染させるのかを表す基本再生産数は12~14(文献によっては16~21)となっています。ちなみに、インフルエンザでは1~2です。
感染力はカタル期が最も強いと考えられています。
また、免疫を持っていない人が感染するとほぼ100%発症するといわれています。
ただし、一度感染して発症すると一生免疫が持続するともいわれています。
ここで、ポイント!!
空気感染(飛沫核感染)と飛沫感染は違います。
飛沫感染
咳やくしゃみにより口から飛び出した細かい水滴(飛沫)を吸い込むことによって感染します。
空気感染(飛沫核感染)
飛沫の水分が蒸発した小さな粒子(飛沫核)を吸い込むことよって感染します。
この2つの感染の違いは大きく、飛沫は水分を含んでいるため、体内から排出された後、その重さによりすぐに地面に落ちてしまいます。しかし、飛沫核は水分が無いので軽い分、空気中を長時間浮遊し、また遠くまで飛んでいくことが可能です。
つまり、空気感染の場合は感染者、保菌者から十分な距離をとっていても感染する可能性があります。
予防方法としては、飛沫感染の場合、マスクの着用が有効です。空気感染の場合はマスクの着用だけでは予防は難しい場合があります。高機能フィルターを用いた空気清浄など、飛沫核の拡散を防止することが重要です。
麻疹の治療方法
有効な治療薬はなく、対処療法が行われます。
麻疹の予防法
麻疹ウイルスの感染力は強く、手洗い、マスクのみでは予防はできません。最も有効な予防方法はワクチン接種によって麻疹に対する免疫をあらかじめ獲得しておくことです。
また、麻疹感染者に接触した場合、72時間以内に麻疹ワクチンを接種することも効果的であると考えられています。
2006年4月1日以降、定期の予防接種として、麻疹・風疹混合ワクチン(measles-rubella:MRワクチン)の接種が開始となり、2006年6月2日から下図の年齢での2回接種となりました。
「国立感染症研究所 感染症疫学センター http://www.nih.go.jp/niid/ja/from-idsc.html」より
ここで、疑問?? なぜ、2回接種なのでしょうか?
理由1
1回の接種で免疫が獲得できなかった子どもたちに免疫を与えるためです。
ワクチン1回接種による免疫獲得率は93~95%以上、2回接種による免疫獲得率は97~99%以上と報告されています。
理由2
1回の接種で免疫を獲得したにもかかわらず、その後の時間経過とともにその免疫が減衰した子どもたちに再び刺激を与え、免疫を強固なものにするためです。
理由3
1回目に接種しそびれた子どもたちにもう一度、接種のチャンスを与えるためです。
尚、ワクチンの初回接種後の反応としては、発熱が約20~30%、発疹は約10%に認められています。ただし、いずれも軽症であり、ほとんどは自然に消失します。
ここで、疑問?? 外出、登校はどうしたら良いの??
学校保健安全法施行規則の中で、麻疹は第二種感染症に定められています。
「解熱した後3日を経過するまで出席停止。ただし、病状により学校医その他の医師において感染の恐れがないと認めたときは、この限りでない」
麻疹については、日本は2015年3月に世界保健機関(World Health Organization:WHO)西太平洋地域事務局より「排除」が認定されました。しかし、海外からの輸入による地域的な流行は今でも生じているため、予防接種を維持する必要があります。
ここで・・・麻疹と風疹の違いはお分かりになりますか?
風疹は「3日ばしか」ともいわれ、どちらも主な症状が発熱と発疹のため、よく混同されます。
子どもの頃に麻疹にかかったのを風疹にかかったと思い込んでいたり、またその逆もあります。これらの場合、かかったと思い込んでしまうことで「免疫がある」と誤解してしまい危険でもあります。
そこで、次回は、春に注意するべきお子さんの病気として、“風疹”について考えていきたいと思います。
今回も、最後までお付き合い頂き誠に有難うございました。
【 “あの頃のすくすく赤ちゃん” のご紹介です】
~写真の思い出~
生まれて初めての冬の写真です。太っていたので立つのが遅かったと聞いています。
(写真は1968年撮影)
1960年代の世界での出来事
アポロ11号による人類初の月面着陸(1969年)
1960年代の日本での出来事
カラーテレビの本放送開始(1960年)
東海道新幹線開通(1964年)
東京オリンピック開催(1964年)
筆者プロフィール:樋屋製薬株式会社 薬剤師/大阪家庭薬協会 品質部会副部会長